架け箸のオリーブの花咲くお箸は、パレスチナ産のオリーブの木100%で作られています。
では、このオリーブの木はパレスチナにとってどのような意味があるのでしょうか。

オリーブの木の効能・特徴

オリーブという植物は、人間が使えない部位の無い環境に優しい素材です。オリーブオイル(食用、化粧用、マッサージオイル、宗教的利用など)、実のピクルス、生育に不要な枝の木材利用、葉やこぶのお茶と用途は多岐にわたります。搾りかすも農家さんでは燃料にして有効活用しているのだとか。
木材は堅く油分が多く含まれるため水に強く、また抗菌作用があることから食器としての利用に適しており、価値ある材として取引されてきました。
その自然に培われた木目の美しさ、不均等さには科学的にも人を癒す作用があるそうです(木材に通底する作用)。


パレスチナの「生きた化石」

オリーブは地中海沿岸、それも現在の中東地域が原産と言われており、遥か銅器時代、紀元前6000年頃にはパレスチナ周辺でも栽培されていたそうです。今でも、樹齢4000年ほどの木の何本かがパレスチナで守り育てられています。実を付け始めるまでには20年ほどかかり、それから先数千年生きることから、パレスチナの人達にとって土地の過去と未来を象徴するアイデンティティとして親しまれています。
実際に、歴史あるオリーブの段々畑の景観が2014年には世界遺産に認定され、観光資源としても重要になっています。

暮らしと文化の礎

現地を訪ねると、郊外のいたるところにオリーブ畑が見られます。
乾燥や厳しい生育環境に負けないオリーブの木はパレスチナの人々にとっての暮らしの礎であり、豊かな伝統刺繍も民族舞踊もクーフィーヤもその上に成り立ってきました。

耕作地の約48%がオリーブ畑で、そのほとんどを占める約93%がオリーブオイル生産のために使われています(残りは実の塩漬けやオリーブオイル石鹸等に)。この収穫が農業収入全体の約25%、さらにはパレスチナ経済全体の約14%を支えています。

約8万世帯の農家さんがオリーブオイル生産を主な収入源にしています。

象徴的な面だけでなく、実質的に農家の生活に欠かせないのがオリーブなのです。


環境破壊と農家の危機

そんなパレスチナのオリーブの木は、何重にも立ちはだかる人災の最前線にあります。

1.道路建設・軍用接収のためと引き抜かれる

パレスチナでは、土地を管理しているのは占領国イスラエルです(パレスチナ問題とは)。
内部に存在するイスラエルの住民の町同士を繋ぐ道路を通すため、新しい住宅地を作るため、国立公園を作るため、理由は様々ですが、1967年から2009年にかけて約250万本の木々(オリーブの木がそのうち約80~100万本)が引き抜かれました。中には樹齢1000年を超える木もあり、さらにどこか別の国で転売されているケースもあるそうです。

これによる経済的な損失は55,133,602 USDと見積もられています。

2.日頃の世話が難しい

パレスチナでは2002年から、土地を分断するような形で壁が建設されています(フェンスの場合もあります)。その壁が農地を分断し、農家さんが世話をするのを困難にしています。またアクセスできる場所であっても、木や農家さんに危害を加えようとする一部の人達に出会うリスクがあったり許認可が必要であったりするため、農業は簡単ではありません。壁の向こうに置き去りになった木は約100万本あると言われています。
また、本来ならほかの作物を植えることも可能な土地であっても、不安定な許認可の実態や、農具を持ち込めない状況から、ある程度世話ができなくても生き残る可能性が高いオリーブの木を選択する農家さんもいます。

3.リソースが限られている

土地の管理権が無いだけはなく、地元の農家さんには水の権利も保障されていません。農業社会のパレスチナでは、かつては井戸水が利用されてきましたが、現在は地下水の使用は認められておらず、どの家も雨水を貯めるタンクを備えています(これは街でも同じです)。一方で周辺に住むイスラエルの住民は農家さんの約4倍の水を確保して暮らしています。

4.収穫時期をコントロールできない

2.のように、農地のロケーションによっては国の許可が無いとアクセスできません。そのため、収穫の最適な時期に必ずしも臨めるとは限りません。人数の制限や時期のずれがあると、オリーブの品質にも大きく影響します。

5.気候変動の影響

こうした人災に加え、今世界中で起きている気候変動の影響も受けています。
雨量や時期が変化したことで、厳しい条件に対応できるオリーブであっても生育のサイクルと外界の生態系が合わなくなり、一説によれば、防げていた虫が実に入り込み駄目にしてしまうことがあるそうです。また、雨が少ないと免疫がつかず、病気に弱くなってしまうといいます。

オリーブとともに生きる

しかし、パレスチナの農家さん達は冷静です。
架け箸はまだ農家さんと直接話をしていませんが、知人から聞く話や入ってくるニュースからは、土地に根差した、深い思いと意志とを感じずにはいられません。

Palestine Fair Trade Association (PFTA)は、有機栽培を推進しているだけではなく、昔ながらの方法と技術を掛け合わせ、土壌の水分が夏場に失われないよう工夫し生産高を増やしています。ここまでにお話ししたようなパレスチナ独特の生活条件下で、気候変動にも耐えうる農業の方法を考え実践しているのです。

他にもコミュニティに根差した取り組みはたくさんありますが、そこから見えてくるのは「自給」の姿です。
経済的に依存させられることなく、必要なものを内部でまかなうことは、そこで暮らす人たちの生活保障になります。占領下であっても、自尊心を持って土地とともに暮らすことができるのです。

勿論すべての農家さんがそうではないでしょうが、印象的な言葉を最後にご紹介します。

Despite losing 1,500 fruit trees, Daher Nassar says, ‘I will plant more trees – double trees!’, while his sister says, ‘nobody can force us to hate.’ The Tent of Nations is also a centre for peace-building, running workshops for both Israelis and Palestinians. The Israeli government has attempted to take its land, and the farmers have been fighting a legal case for 23 years in order to keep it, at the same time defending it from settler attacks. Despite this, Nassar’s brother, Daoud says, ‘Our response to this injustice will never be with violence, and we will never give up and leave.’

あるオリーブ農家さんの言葉

訳すと、
1500本の果樹を失っても(引き抜き等による被害)、ダーヘル・ナッサル氏は言う「もっと木を植えるよ。2倍にすればいい!」「恨むかどうか決めるのは私達ですから」と横で妹は言う。ここ民衆のテントは平和構築のためのワークショップでもあり、イスラエル人とパレスチナ人双方に開放されている。イスラエル政府はその土地を接収しようとしてきたが、農家たちは裁判で23年も争ってきた。と同時に、その場所を入植者(上述の木や農家に危害を加えようとする人達)の攻撃から守っている。こうした状況のなか、ナッサル氏の兄弟ダウード氏は言う「私たちは、暴力をもって不正義に答えようとは決して思わないし、諦めてここを去ることもありません」

パレスチナ産のオリーブの木は、こうして農家さんから先祖代々大切に育てられ、この地域の暮らしと文化を支え、一緒に作ってきた存在です。人災という風雨を乗り越え、より一層愛情をかけられた特別な木。

同じくこの土地で続いてきた地場産業がそれを受け取り、お箸の形になって日本に届きました。

これが、オリーブの花咲くお箸の物語です。

※農家さんへの取材はオンラインで困難な為、現地入りしてからの聞き取りとなります。

参照
https://www.resilience.org/stories/2020-02-20/regenerative-farming-in-palestine-for-social-and-ecological-resilience/ 
https://www.resilience.org/stories/2019-01-29/a-taste-of-palestine-cultivating-resistance/
https://sustainablefoodtrust.org/articles/farming-in-palestine/
https://electronicintifada.net/blogs/maureen-clare-murphy/olive-harvest-palestine-photos-and-video
https://reliefweb.int/report/occupied-palestinian-territory/fact-sheet-olive-trees-%E2%80%93-more-just-tree-palestine
https://hinatano.co.jp/docs/column/3670/
https://www.kagura.co.jp/blog/howtochoose/8499/
全て2021年6月27日最終閲覧